ここがポイント
中3(15歳)の成長を見つめて
学習指導要領では、学習する内容が発達段階ごとに1年生と2年生・3年生とに分けられています。しかし、現場で生徒たちと生活をしていると、1年生と2年生が異なることは明白ですが、2年生と3年生においても身体的にはもちろん、精神的に見てみても大きな差があり、同じように考えてしまうことは避けなければなりません。特に中3である15歳の成長は、たくましく、しかしナイーブで、大人への一歩を踏み出すエネルギーに満ち溢れています。成長の実感と迷いの中で、その思いと直接向き合える美術の作品制作は、自己と対峙する勇気と自己を肯定的に見つめなおす力を彼らにもたらす可能性を持っています。
そこで、新しい学習指導要領では、「特に第2学年と第3学年の発達の特性を考慮して…」と、しっかり記述されるようになりました。(第2 各学年の目標及び内容の3 内容の取扱い)
例えば1年生だと、新たな視点で対象を観察することで、個々がそれぞれ独自の感じ方を心のフィルターを通して、記憶として無邪気に感動を取り込み、直接表現しようと試行錯誤が生まれます。 しかし3年生になると、個人差はもちろんですが、感じ取ったことを一度自分の心の中で捉え直し、印象の記憶として表現に生かすことができるのです。2年生だと、まだまだその力を発揮することは困難です。
中3(15歳)と鑑賞が育むもの
中3である15歳の記憶は、とても抽象的で、不安定な状態で心の中に存在します。しかも無意識のうちに取り込まれるいくつかの印象の記憶はすぐに消えてしまいます。概念的な印象の記憶とならないよう授業の中で思考し、自分らしい判断で主題を決定し、表現に結びつけることが重要になります。こうした印象の記憶を豊かなものにする学習は、さらに豊かな感受の力を育みます。表面的なカテゴライズされた記憶にとどめてしまわないようにするために、感じとった時の自分の心の声を聴きとらせましょう。自身の心の声は大切なものでも、自己内では表出で終わってしまうことがよくあります。それを確かなものにするのが共有という体験です。共感し、理解し合い、意見を戦わせ深めるという学習は心の声を確かなものにします。それができるのが、中学3年生、15歳の成長なのです。
(シナリオ・監修、文 川合 克彦)