中学校の美術による学びのチカラを、3年間の生徒の成長する姿に重ね、
読者と一緒に考える、連載コラムです。
入学当日からケンカ勃発!という衝撃のスタートを切ったこの学年。以来トラブルが絶えず、1年生というのに連日の指導が続いていました。はてさて、この状況での美術の授業をどのように展開しようかと悩んだ先生は、デザインの授業を中心に「伝え合う」「読み解く」ということを軸に授業を展開しました。さて、この学年の生徒たちは、いったいどのように成長していったのでしょうか?
この状況に先生は、中学校受験の抑圧や、中学校という新しい環境への不安感や威圧感などから解放してやらない限り、状況は好転しないなと考えました。
お互いに信頼できない関係では、本当の自分をさらけ出す自己表現は難しい。少しずつでもいいから、自分の感じたこと、思うことを伝えることができる、なんでも話せる場が自然に生まれるような教室にしたい。
そこで、一方的に教え込むのではなく「自分で自然に気付く」ようにし、その小さな気付きをすくい上げるように共感したり称揚したりし、生徒同士で学びを繋げ合ったり、広げていけるような展開を心がけました。
まず、授業開きとして取り組んだのが、文字デザインの鑑賞を中心とした「伝える、伝わる」難しさと喜びを実感する学習でした。はじめに野球チームのユニホームや漫画のタイトルロゴの鑑賞をし、続けて二人一組でのアートカードによる伝言鑑賞ゲームに取り組みました。すると、学習メモに「伝えたい、聞きたいって心が大事」「自分と友達が違うことを考えている、知っていることも違うことがわかった。伝えるって難しい」 との記述が見られました。さらに驚かされたのは「相手に伝えるコツは、相手の反応をよく見て、ほめること」。先生は、あの子供っぽいケンカに明け暮れていた生徒たちの変容に驚きと喜びを感じました。
その後、進んで手伝いをしたがる、ワークシートよりも自分たちでノートをつくりたがる姿などから、いつまでも子供扱いされるストレスを感じているのかなと感じました。そこで「形や色でヒットする(伝わる)デザインを読み解く」という授業では、コミック雑誌の表紙や、誰もが知っているゲームのUI(ユーザー・インターフェイス)デザインをプレゼン風に紹介しながら、みんなで対話的に読み解いていくという「大人っぽい」雰囲気にしてみました。
学習の流れの中の伝え合う場面を通して、単にデザインの知識や技術だけでなく、伝えようとすることやわかり合おうとすることの大切さを学び、その後も読み解くことへの自信を高めながら、中学生としての成長を見せてくれました。
大橋 功
岡山大学大学院 教育学研究科 教授 (美術教育講座)
○専門分野
図画工作・美術科教育に関する学習指導と教育課程、教材開発に関する研究
○経歴
京都教育大学卒業、大阪市立淡路中学校、大阪市立城陽中学校、兵庫教育大学大学院学校教育学専攻芸術系派遣留学修了、大阪市立柴島中学校、佛教大学、東京未来大学を経て2011年より現職
○所属学会
日本美術教育学会理事、事務局長、日本実践美術教育学会会長、美術科教育学会会員、大学美術教育学会会員