世の中を“美術でのつながり”を探って、あらゆる分野で活躍される人物にインタビューするコーナー。
第三回は、今やプログラミング教育といえば、この方、安藤昇先生です。
教育の現場にプログラミングを活用することで、新しい教育方法や仕事の効率化をもらたらしてきた安藤先生。そもそも、ご自身がプログラミングにご興味を持たれたきっかけは?
それは私の高校時代まで遡ります。当時、物理の先生が最新のパソコンを学校に買い揃えてくださったんです。放課後、コンピュータークラブの友達と数種類の最新機種をいじり倒して、それぞれで異なるプログラム言語の対応表を作ったりして……、とにかく楽しかったんですよね。その時に、プログラミングの基礎がある程度できたと思いますし、その先生みたいな大人になりたいと思ったのを覚えています。そして大人になった今、思うことは、よい環境とモノを用意すれば、伸びる子は伸びるということ。だから、その後、高校教師になって、かなり早い時期から、一人一台端末の環境を作りました。時間割の作成もプログラム化しましたよ。
なるほど。ご自身の経験と恩師の背中を見て、今の安藤先生があるわけですね。正直なところ、プログラミング教育と聞くとむずかしそうなイメージがあるのですが、スムーズに受け入れられるものなのでしょうか?
ICT環境の整備についても、最初は反対派が多かったですね。例えば、授業にタブレットを導入するのも職員会議にかける前に前例がないことの不信感から反対派の動きがあり……。でも、そんなピンチを救ってくれたのがビジュアルで使用イメージを伝えることができる動画でした。学生時代に映画を作っていたこともあり、OBと賛同派を集めてタブレットの良さをドラマ仕立ての動画にしてみたんです。授業に出られない生徒にもタブレットを使用することで授業を届けることができるというストーリーで、みなさんが感動してくれて、誰も反対することなく導入が決まりました。そのとき、論理よりもビジュアルやイメージで心に訴えることがいかに重要な要素であるかを実感しましたね。
それは興味深いお話ですね。ビジュアルは大事ですよね?
例えば、論理的な要素であるプログラミングは、私たちの生活の中でありとあらゆるものに活用されています。でも、そのプログラム自体の価値はあまり認知されていないんですよね。では、一体どんな付加価値を付けたら、そのプログラムが活きるのかと考えてみると、ビジュアル要素が必要不可欠になるんです。プログラムによって、ただの球体が動くだけではつまらなくても、球体をキャラクターに置き替えて同じ動きをすると途端に楽しくなります。そうやって付加価値を付けることが、プログラミング自体に興味を持ってもらうきっかけにもなるんです。イメージやビジュアルがプログラムの価値を高めているのです。そう考えると、プログラミングにとって美術的な感性だったり要素がいかに重要かわかります。
美術とプログラミング、両極端の位置関係にありそうで、実は密接なつながりがありますか!そんなお考えをお持ちの安藤先生が中学生の美術の授業をするなら、どんな内容にしたいですか?
スクラッチやマインクラフトなどゲーム感覚でプログラミングを学べるソフトがあるので、それを使いたいと思います。自分で小難しいコードを打ち込むというよりは、キャラクターを動かすためのコードがあらかじめたくさん用意されているものです。それらを組み合わせることで、複雑な動きもできるようになります。中学生なら、最初に少しデモンストレーションをするだけで、すぐに動かせるようになると思います。後は目標を与えて、どのように達成するのか、そのためには何を組み合わせればいいのかを考えてもらう。きっとトライ&エラーを多く繰り返すと思いますが、その過程も重要な学習のひとつ。最後に作った作品を発表してもらいます。それが自分のイメージ通りなのか、違っている場合は思い描いたイメージに近づけるにはもっと良い方法があったのではないかと、試行錯誤してほしい。そんな風に生徒の想像する力をもっともっと、豊かにするって、美術の学びが働きませんか?イメージを形にしていくという。いつかきっと世界を変えるような天才が生まれるのではないかと思っています。