学び!とシネマ 一緒にシネタイム 子どもも、大人も。

“法教育”特集 コラボ-トピックス&シネマ-
裁判映画傑作選!

画像:コラボ トピックスVol.16

市民が裁判に参加するといった、映画史に残る名作を紹介。

 来年5月から、裁判員制度がスタートします。わたしたち国民が、いつ裁判員になるかは分かりませんが、好むと好まざるとにかかわらず、だれかが、いつか、殺人事件などの刑事事件の裁判に関与することになるのです。
 これまでの刑事裁判では裁判官は3名。この制度はこれに民間6人の裁判員が加わります。裁判員を務めた人には、日当、交通費が支払われますが、その額は年間32億円になるとも言われています。
 制度についてのくわしいことは、新聞報道もありましたし、ネットで読むこともできます。ここでは、裁判を扱ったいくつかの映画をヒントに、日本の裁判員制度を考えるきっかけになればと、思っています。

画像:十二人の怒れる男(1957年)

十二人の怒れる男(1957年・アメリカ)
12人の怒れる男(2008年・ロシア)

 1957年、アメリカ映画「十二人の怒れる男」が作られました。父親をナイフで殺したという容疑で、17歳の少年が起訴されます。陪審員は12名。いろんな人たちが陪審員になっていて、当然、生い立ちや人生観、価値観はちがっています。
 12名のうち11名が有罪を主張、ただ1人が、有罪の根拠について見直したいと言い出します。そして、有罪となる根拠、証拠がひとつまたひとつ崩れていって、一人また一人、有罪から無罪に判断を変えていくのです。アメリカの陪審員制度では、評決は全員一致が必要、そこまで議論を尽くすのです。
 考え直す提案をした陪審員がヘンリー・フォンダ。議論を尽くそうと言う人もいれば、野球のナイターを見たいから、早く終わろう、という人もいます。そのような12人が、ひとつの部屋の中だけの限られた空間で議論を続けます。やがて交わされる議論は、次第に熱を帯びていきます。映画はサスペンスたっぷり、アメリカの陪審員制度について、そして裁判はいかにあるべきかについて、じゅうぶん考えるきっかけになった映画でした。

画像:12人の怒れる男(2008年・アメリカ) シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」が作られてから、ほぼ五十年。このほどロシアの監督ニキータ・ミハルコフがリメイクしたのが「12人の怒れる男」です。公開は8月23日でした。「十二人の怒れる男」とほぼ同じ設定、状況ですが、これはチェチェンの少年が養父を殺害した容疑での裁判です。
 陪審員室は、法廷改修のため、古い体育館。これを見て、だから共産党はダメなんだ、とつぶやいたり、同じ陪審員に、ユダヤ人野郎、と叫ぶ陪審員もいます。これまた、さまざまな性格、異なる価値観、思想をもった人たちが集まっています。
 背景に、高級マンション建設の利害がからむ設定は、いまのロシアの実情を踏まえたものといえます。ニキータ・ミハルコフ監督の視線は、敵対するロシアとチェチェンのどちらにも味方せず、ときおり、チェチェンの現実を浮き彫りにしながら、陪審員たちの性格をあざやかに描きます。

アラバマ物語(1963年・アメリカ)

画像:アラバマ物語(1963年・アメリカ) 裁判が出てくるシーンは、それほど多くはありませんが、1963年に作られたアメリカ映画が「アラバマ物語」です。舞台は1932年、アメリカじゅうが大不況のころのアラバマ州の小さな田舎町です。女性の暴行事件で逮捕された黒人の裁判が始まります。グレゴリー・ペック扮する正義感あふれる弁護士の奮闘ぶりが、弁護士のまだ幼い子供たちの目を通して描かれます。
 陪審員の評決は有罪。弁護士は、控訴になれば無罪にできる確証をつかんでいましたが、犯人とされた黒人が脱走、殺されてしまいます。これがきっかけで、弁護士の子供たちが何者かに襲われようとしますが…。
 黒人であるということだけで、差別や偏見を持つことの愚かさを、的確に伝えた映画です。なにしろ1950年代のなかごろまでは、黒人には公民権がなかった国です。原作はハーパー・リーの小説で、アメリカにおける公民権運動のきっかけになったと言われている傑作です。日本でも翻訳が出ていますので、ぜひ読んでみてください。

その他の傑作ムービー

 そのほか、裁判や法廷を扱った映画の傑作は、たくさんあります。記憶に残る映画を、いくつか紹介します。たいてい、DVDになっていますので、いま見ることができると思います。

 以前、小欄で取り上げたのが、小林正樹監督のドキュメント「東京裁判(1983年・日本)」(学び!とシネマVol.06にて掲載)。東京裁判がA級戦犯を扱ったのにたいして、B級戦犯への裁判を描いたのが、小泉堯史監督の「明日への遺言(2008年・日本)」でした(学び!とシネマVol.24にて掲載)。

 娯楽映画として楽しめるのは、酔いどれのダメ弁護士に扮したポール・ニューマンが、医療ミス事件の弁護をきっかけに突如、変身する「評決(1982年・アメリカ)」です。映画の後半、見事な弁護ぶりを披露する様子が描かれています。監督は「十二人の怒れる男(1957年・アメリカ)」と同じシドニー・ルメット。これが正義とばかり、見ていての爽快感がたっぷりの作品でした。

 ジュリア・ロバーツ主演の「エリン・ブロコビッチ(2000年・アメリカ)」は、セクシーな衣装のジュリア・ロバーツが周囲に誤解されながらも、公害の裏にある真実を暴く裁判での奮闘ぶりが描かれていました。

 「フィラデルフィア(1994年・アメリカ)」は、エイズに感染した弁護士役のトム・ハンクスが、法律事務所に解雇され、法廷で争うドラマです。
 日本映画「それでもボクはやってない(2007年・日本)」は、周防正行監督。痴漢の容疑で起訴された男性の裁判を通して、日本の裁判制度の実状をあらわに見せてくれました。

 ほかにも裁判の登場する傑作映画はたくさんあります。人を傷つけたり殺したり、騙したりといった事件だけではなく、戦争に勝った国が負けた国の人たちを裁くのを描いた映画もあります。
 人を殺すことは犯罪です。しかし、戦争では、たくさんの人を殺すことで英雄になったりします。国によっては、具体的な犯罪ではなく、権力に都合の悪い思想を持つだけで、死刑になったり罰せられることもあります。日本でも、戦前にはそういった法が存在していました。
 多くの映画から、どうか、幅広く、人が人を裁くことの意味を、考えてもらえればなあ、と思います。

画像:十二人の怒れる男 DVDジャケット画像:アラバマ物語 DVDジャケット画像:評決 DVDジャケット