ブックタイトル情報セミナーレポート Vol.1

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概要

情報セミナーレポート Vol.1

2 32018 年5 月17 日に第16 回未来投資会議が開催され,安倍総理が大学入試に「情報」を導入すると発言した。この会議で出された資料には「高大接続」と書いてあり,「高等学校の新学習指導要領で必修化される情報Ⅰを,大学入学共通テストの科目として各大学の判断で活用できるよう検討」と提案されている。続く第17 回の資料には,「大学入試において必履修科目情報Ⅰ追加」と書いてある。そのときの重点施策にも,「大学入学共通テストにおいて国語,数学,英語のような基礎的な科目として必履修科目「情報Ⅰ」(コンピュータの仕組み,プログラミング等)を追加するとともに(以下省略)」と書かれている。ここで出てきたのは,「情報」を情報関係の仕事に就く人にだけやらせればよいわけではないということである。国語,数学,英語のような基礎的な科目として,大学に進学を希望する人は全員,情報科の試験を受けるということを想定している。これを受けていくつか動きがあった。1つは,情報処理学会が出した声明文である。この声明文には,「情報処理学会としては情報科の入試というものを歓迎します」,「それをフルに学会としてサポートしていく準備もあります」などといった内容が書かれている。さらに,いわゆるセンター入試で「情報関係基礎」を担当し,問題を作られていた方々が,大学入試センターに対して次のような提言をなされた。1つは,大学入試センターにはこれまで「情報関係基礎」をセンター入試でやってきた積み上げがあるのだから,情報Ⅰに関してもきちんとやりましょう,ということ。もう1つは,出題科目が情報Ⅰだけというのは不十分であるため,情報Ⅱもやるべきだ,といった内容である。つまり,大学入学共通テストでは,「情報Ⅰ」という科目と「情報Ⅱ」という科目を2つ設定する,もしくは「情報Ⅰ・情報Ⅱ」という科目を設定することを提言しているのである。情報Ⅰは,2022 年度から導入される新しい学習指導要領に基づく科目である。「情報Ⅰ」→「情報Ⅱ」と順番に履修していく必要があるので,情報Ⅱは1年遅れて2023 年度に導入される。これまでは,「社会と情報」と「情報の科学」という2つの科目があり,このどちらかを選択すればよかった。しかし,2022 年度からは,高校生には必ず情報Ⅰを受けさせ,情報Ⅱをやるかどうかは学校判断,あるいは生徒の選択という状況になる。情報Ⅱは情報Ⅰをさらに発展させた内容になると考えられる。では,情報Ⅰと情報Ⅱの違いは何か。例えばプログラミングの単元でいけば,情報Ⅰでは個人が基本的なアルゴリズムを理解しながら実際にプログラミングをしてみるということに重点があるのに対して,情報Ⅱでは,色々なプログラムを組み合わせて一種の情報システムとして動くものを設計するということが求められる。また,個人で取り組む課題ではなく,プロジェクトを組んで解決に当たる活動がイメージされる。こうなると,情報Ⅱは大学入試ではかなり出題しづらい。情報入試という視点で見ると,実は何が情報Ⅰで,何が情報Ⅱかというのは,明確ではないのである。難しい内容も含めてすべて情報Ⅰになるのではないか,あるいは,情報Ⅰの入試だとしても,情報Ⅱまで高校でやっておいた方が明らかに有利ではないかとも思われる。最終的に入試科目が「情報Ⅰ」だけに絞られたとしても,気を抜けないかもしれない。入試業界に激震未来投資会議を受けて情報Ⅰと情報Ⅱの違い情報Ⅰは数学Ⅰと,情報Ⅱは数学Bとそれぞれリンクしている。数学の学習指導要領の数学Ⅰの部分には,「数と式」,「図形と計量」,「二次関数」,「データの分析」などがある。「データの分析」の中には,分散,標準偏差などとあり,このあたりは情報Ⅰでいうところの(4)「情報通信ネットワークとデータの活用」と,内容が重複している。一方,数学B には,「数列」,「統計的な推測」,「数学と社会生活」があり,「統計的な推測」というところは,情報Ⅱの「データサイエンス」の部分とリンクしているようである。また,「数学と社会生活」は,情報Ⅱでいうところの(5)「情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究」とリンクしている。結局,情報科と数学科におけるすみ分けとは何か。おそらく数学科では,例えば分散や標準偏差の場合,それらの計算のしかたや意味を教えるのであろう。しかし情報科の中では,たくさんのデータをコンピュータを使って計算し,実際にそれを社会で活用していく,というようなところが期待されているのではないだろうか。現在,大学入学共通テストの問題募集が行われている。2021 年に実施大綱のようなものが出て,2023 年に実施要領,2024 年度の入試からスタートということになる。今回の問題案作成の依頼先は,情報処理学会,日本産業技術教育学会,各都道府県・政令指定都市教育委員会高等学校指導事務主管課などで,募集の範囲は,情報Ⅰの(3)「コンピュータとプログラミング」と,(4)「情報通信ネットワークとデータの活用」の2分野である。また,試験はコンピュータを活用して実施することが想定されているため,募集もそれに沿った形で行っている。コンピュータを活用して実施することを想定した問題には,多肢選択式と,キーボードでプログラムを入力する形式の2つがある。このような2 つの縛りの中で,CBT を前提に問題を作ってほしいという依頼がされている。さらに,知識・技能と思考力・判断力等を組み合わせた作問をしなければならない。このような依頼をし,提出された素案をもとに検討委員会が作られ,その中で問題の検討が進んでいるところである。 図1 大学入学共通テストの問題募集慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部(以下SFC)では,情報入試を3年間実施している。基本的に,午前が「数学または情報」,「外国語」,「数学および外国語」という科目試験になっており(3通りの中から1つを選択),午後に「小論文」を行う。「数学または情報」については,試験当日に配布される問題冊子に情報の問題と数学の問題が両方載っているので,受験生はそれを見てどちらが解けそうかを考え,一方を選択する。情報に関しては,出題範囲が「社会と情報」および「情報の科学」となっている。両方を開講している学校はかなり少ないだろうが,あえて両方を課している。2022年度から実施される情報Ⅰは,「情報の科学」をベースに「社会と情報」の内容も盛り込んだものだと認識しているので,SFC は先取りをして情報Ⅰの入試をしていたと言うこともできる。ただ,2024 年度の入試を「情報Ⅰ」だけにするのか,「情報Ⅰ・情報Ⅱ」にするのかはまだ検討していない。情報入試を始めて今年で4年目になるが,毎年両方の学部で各100 名程度の受験者がいる。総合政策学部のほうが若干少ないが,延べで1年あたり200 名くらいが情報入試を受けている。入試に関して,高校生から「数学入試と情報入試,どちらが得か?」と質問されることが多いが,基本的には,数学入試,情報入試のそれぞれで評価しているので,この間の比較はあまりない。また,「数学または情報」,「外国語」,「数学および外国語」については,統計的処理をして得点の補正を行うため,どれを受けても損得はない。例えば,数学の入試問題の難易度が非常に高く,情報の問題が簡単だったというような場合でも,この2 つを比べているわけではない。「情報」なら「情報」の入試問題を受けた人の間だけで競争が情報科と数学科のすみ分け大学入試センターの動き現在のSFC の入試 慶應義塾大学環境情報学部 准教授 植原 啓介新学習指導要領の施行と情報入試の行方